スポーツをしている小中学生のお子様が、
「肘が痛い…」と訴えてきた事はありませんか?
もしかしたら、その肘の痛みは【野球肘】かもしれません。
大丈夫だと思って放置してしまうと、
状態が悪化し、手術が必要!! なんて可能性も…
そこで今回はスポーツの現場で起こりやすい【野球肘】についてご紹介します。
野球肘という言葉に聞き慣れない方もいらっしゃる方もいるかもしれませんが、
ヤンキースの田中将大投手や、ソフトバンクの松坂大輔投手も
患ったことがある障害です。
ちなみに野球肘と言っても、
テニスやバレーボール、陸上の槍投げなどの競技でも発症するリスクがあります。
詳しく述べると、
過度の投球動作による肘関節の酷使、
股関節や肩関節の不十分な身体機能により
肘関節に負担がかかってしまった投球フォームなど、
投球に関する様々な要因によって起こってしまった肘関節周囲の損傷
の事を野球肘と言います。
野球肘になる原因の前に、投球動作についてご紹介します。
投球動作は大きく5つの動作に分けられます。
・ワインドアップ期
構えた状態から非投球側の足を上げきるまでの期間。
・初期コッキング期
上げた足を投球方向に踏み込み、その足が完全に地面に接地する時点までの期間。
・後期コッキング期
足を踏み込んでから投球側の肩関節が最も外旋するまでの期間。
・加速期(アクセレレーション期)
投球側の肩関節が最も外旋し、
肘関節も最も高い位置まで上がり(前腕は後方に倒れている状態)、
投球方向に徐々に加速しボールが指から離れるまでの期間。
・フォロースルー期
ボールが指から離れ、腕を振り切るまでの期間。
一言で『投球』といっても、肩関節や肘関節だけで投げているのではなく、
股関節や膝関節、体幹部分も大きく使い、
下肢の力を体幹を通じて上肢に伝え、投げている事が分かります。
それでは野球肘の種類からご紹介していきます。
野球肘は「内側型」「外側型」「後方型」に分類され、
好発年齢は小学校高学年~高校生くらいまでの男子に多いとされています。
初期コッキング期から
アクセレレーション期に切り替わる際(肩関節が徐々に最大外旋する期間)に、
肘関節への外反ストレスが大きくなり、
上腕骨内側上顆や肘関節内側側副靭帯、
内側上顆に付着している筋肉(手首を手のひら側に曲げる筋肉)に
牽引方向のストレスが増加する事で生じる障害です。
内側型は野球肘の中でも最も多い障害で、
年齢によって痛めやすい組織も変わってきます。
○成長期の段階
・骨端線という柔らかい成長軟骨があり、
内側上顆に付着している筋肉が骨端線の部分を引っ張った結果、
骨端線部が開いてしまう『骨端線離開』。
・内側側副靭帯が引っ張られた結果、
靭帯が付着している内側上顆が骨折してしまう内側上顆の『裂離骨折』。
○ある程度骨が成長した段階(成人)
・柔らかかった軟骨もしっかりとした骨になり、
骨や軟骨自体の損傷は少なくなるものの、その分『内側側副靭帯損傷』が増える。
内側型同様、コッキング期からアクセレレーション期にかけて
肘関節への外反ストレスが大きくなった際、肘関節の外側に
前腕の骨と上腕の骨が互いに押しつぶすような力(圧迫力)がかかり、
さらにフォロースルー期には肘関節外側の関節面同士が
捻られるような力(剪断力)がかかり負傷する障害です。
外側型は進行すると離断性骨軟骨炎を発症します。
概要
【好発年齢】…小学校高学年から中学校低学年の男子に発生することが多く見られます。
【原因】…繰り返しの投球動作における過度な外反ストレスにより、
上腕骨小頭と呼ばれる骨軟骨が変性し、
症状が進行すると、
病巣部の骨軟骨片が遊離して関節内遊離体(関節ネズミ)となり、
関節内を移動する状態になることで、
肘関節の屈伸時に引っ掛かり感や
ロッキング(遊離体が関節の間にちょうど挟まり、肘関節がある角度で動かなくなる症状)
を起こす事もあります。
【主な症状】…投球時や投球後に肘関節外側~後外側にかけての痛みが見られ、
前腕部にも痛みを訴えることもあります。
また、肘関節外側に圧痛と腫れが出ます。
痛みが出ると肘関節の可動域制限も見られ、
特に屈曲制限が出ることが多く見られます。
分類
離断性骨軟骨炎はその症状の進行具合によって、
透亮期、分離期、遊離期に分類されます。
・Ⅰ度:透亮期(とうりょうき)
肘関節外側の腫脹・圧痛は軽度。
この時期であれば、痛みが出てから一定期間、安静にしていればで痛みは消失します。
・Ⅱ度:分離期
肘関節外側の腫脹・圧痛は著明にみられ、投球するごとに痛みを感じ、
レントゲンを撮ると、正常の骨組織と変性を起こした骨組織の間には分界線が現れます。
・Ⅲ度:遊離期
激痛とともに関節内遊離体の影響でロッキングが起こります。
治療法
透亮期や分離期の初期であれば
安静・投球禁止により、損傷部位の修復・治癒が期待できます。
安静・投球禁止の期間は人それぞれではありますが、
場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を禁止することもあります。
また、分離期の後期や遊離期まで進行したケースでは、
再び痛みなく投球をするために、そして将来的な障害(可動域の制限)を残さないために
手術をするケースがほとんどです。
ボールをリリースする加速期では外反ストレス、
フォロースルー期では肘関節伸展強制により、
前腕の内側の骨で尺骨と言われる肘を曲げたときに後方に突出する部位が
上腕骨の後方にあるへこんだ部分(肘頭窩)に衝突します。
この動作の繰り返しにより、肘頭の疲労骨折や上腕三頭筋の牽引力により
骨棘形成(骨、軟骨の増殖、隆起が生じる)や骨端線離開が起こります。
○成長期の段階
・骨端線という柔らかい成長軟骨があり、
肘頭に付着している筋肉が骨端線の部分を引っ張った結果、
骨端線部が開いてしまう『骨端線離開』や『骨端核異常』が多い。
○ある程度骨が成長した段階(成人)
・柔らかかった軟骨もしっかりとした骨になり、
骨や軟骨自体の損傷は少なくなるものの、
その分、上腕三頭筋の牽引力により起こる『上腕三頭筋腱炎』が多い。
内側側副靭帯の完全断裂や外側型の分離期の後期や遊離期では
手術が選択されることが多いですが、基本的には保存療法が選択されます。
まずは肘関節の炎症と組織の修復を図るため、
投球禁止と局所の安静が必要になります。
安静の期間は
内側型で2~3か月、外側型では6ヵ月以上必要となると言われますが、
場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を禁止することもあります。
もちろん安静にし投球動作をやめていれば、
肘関節周りの炎症が落ち着き、組織が修復され、痛みはなくなるとは思いますが、
この痛みがない状態は一時的なものであり、
またこれまで通り投球動作を繰り返すと痛みが出てくるでしょう。
そうならない為には肘関節周辺のケア・強化はもちろんですが、
最初の方に述べましたように、
投球動作における障害において、
肘関節以外の部位の影響もかなり大きなウエイトを占めますので、
肘関節以外の全身の評価・機能改善・強化が必要となります。
また、
・ステップした非投球側側の足が
過度にインステップ(右利きであれば3塁方向に踏み出す)していないか?
・身体が前に突っ込んで投げていないか?
・投球時に身体の開きが早くなって肘が下がっていないか?
など、投球フォーム自体が肘関節に負担のかかるフォームになっていることも
しばしば見られるので改善していかなければなりません。
ですので痛みの原因となっているこれらの運動機能を正しく評価し、
本来の動きを取り戻していく事で肘関節にかかる負担を減らし、
投球時の痛みを解消するだけではなく、
その後痛みなく投球動作が続けられるようにしていきます。
しかし、どんなに素晴らしい投球フォームの持ち主でも
コッキング期~アクセレレーション期にかけては
必ず肘関節に外反力はかかってしまいます。
ですので、その外反力に負けないように、内側側副靭帯や
前腕屈筋群(手首を手のひら側に曲げる筋肉)が必要になってきます。
基本的には靭帯自体を意識して鍛えることは難しいのですが、
前腕部の筋肉であればシンプルな動作で、
かつ意識してトレーニングする事ができるので、そちらを紹介したいと思います。
○手のひら側に曲げるトレーニング
写真ではダンベルを用いていますが、
ゴムチューブや500㎖のペットボトルなどでも構いません。
①低いイスなど安定した台に腕を手のひらを上に向けた状態で置き、ダンベルを持ちます。
②ゆっくり手首を手の甲側に曲げ、次にゆっくり手首を手のひら側に曲げます。
③手のひら側に曲げきった所で『ゆっくり1秒間』静止してから手の甲側に曲げていきます。
○手の甲側に曲げるトレーニング
上記のトレーニングの逆の動きを行います。
①先程とは逆に手の甲を上に向けた状態で腕を置き、ダンベルを持ちます。
②ゆっくり手首を手のひら側に曲げ、次にゆっくり手首を手の甲側に曲げます。
③手の甲側に曲げきった所で『ゆっくり1秒間』静止してから手のひら側に曲げていきます。
○小指側に曲げるトレーニング
最後に内側側副靭帯部に近いところに付着している筋肉のトレーニングです。
①肘を伸ばした状態でダンベルを持ちます。
②ゆっくりと小指側に手首を返していきます。
③手首を返しきったら『ゆっくり1秒間』静止してからダンベルを下ろしていきます。
※ポイント
3つのトレーニングとも可動域いっぱいにゆっくりと動かすことが重要です!
治療法のところでもご紹介しましたが、野球肘の痛みが出る要因は様々です。
投球フォームにより肘関節に負担が掛かりすぎてしまいますので、
三軒茶屋にある当『あすウェルスポーツ鍼灸整骨院』スタッフが
肘関節に負担の少ないフォーム作りのお手伝いをさせて頂ければと思います。
もちろん必要があれば、監督・コーチ、保護者の皆様へ
今の肘関節の状況やこれからの治療方針についてなど、
しっかりご説明させて頂きますので遠慮なくお申し付けください。
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